バスカーヴィルは金属活字とデジタルフォントの違いが大きい書体です。活字といっても18世紀のオリジナル版のことは良くわからないので、20世紀の Monotype Baskerville (Series 169) のことですが。モノタイプ活字版は最高の書体の一つだと思います。なんとかその雰囲気をデジタルで再現できないでしょうか。いろいろ考えてみました。
バスカーヴィルの特徴としては「コントラストが強い」ことが良く指摘されます。しかしモノタイプ活字版は、DTPでの印刷物に慣れた今日の眼で見ると、それほどコントラストが「強い」ようには見えません。私の主観で表現すると、コントラストが「艶かしい」という感じに見えます。端正なフォルムと、絶妙なコントラストの両立。美しいですね。

この写真は1958年にイギリスで印刷された本です。11ポイント活字を行間ベタで組んでいます。
横幅がやや広い。字間が狭い。にも関わらず混み合った印象にはならない。といった特徴があるように思います。単語が塊として眼に飛び込んできます。そしてしっかりとしたセリフの効果か、行の直線的な並びが強調されて見えます(この写真ではわかりにくいですが)。行の中でのアクセントになるのは腰の据わった大文字です。

モノタイプの現行デジタル版は、ずいぶん印象が違います。かなり細身になっていて、バスカーヴィルの十八番、小文字の「g」なんか、へなへなです。書籍本文に使うことを前提とすれば、活字版とは全くの別物だと考えるべきでしょう。何かの縁で知らないうちに Mac にインストールされていた TrueType の Baskerville はモノタイプ製でした。

世間で多く使わているのは ITC New Baskerville です。字間が広く、コントラストが一層強調されているのが特徴でしょうか。写植時代を思い起こさせる雰囲気です。これはこれで、悪くありません。でも、デジタル版だと鋭すぎる印刷結果になる場合もあります。あと、このフォントをツメツメにして長い本文を組んで、失敗している本をよく見るんですよね。
他にもバスカーヴィルのデジタル版はたくさんあります。たとえばURWのものは……見本帳を見た限りでは好きになれなそうなので省略。ライノタイプの Baskerville Classico は OpenType 化が待たれます。Fry系のものはデザインがちょっと違うのでここでは対象外。

そんななかで一番気に入ったのは、Berthold の Baskerville Book です。あの Mrs Eaves と双璧とも言えるぐらい、肉感的なバスカーヴィルになっています。字間が微妙に狭すぎるのか、やや優雅さに欠けるような気もしますが、かなり活字版に近いのではないでしょうか。1980年に写植用にデザインされたとのこと。現在では OpenType Pro 版も出ています。まだ実際に使う機会は得られていないのですが、一度試してみたいですね。

左が Baskerville Book で、右が ITC New Baskerville です。

イタリックを比べると違いが際立ちます。 ITC のバージョンは "New" と銘打つだけありますね。新しく創作された書体といっていいのかもしれません。